地球観測衛星「だいち」物語
Presented by CHAKE...
【個人的に長寿命で大役を全うしたと思う日本の衛星3つ】
●静止気象衛星「ひまわり5号」(GMS-5)
●小惑星探査機(工学実験衛星)「はやぶさ」(MUSES-C)
●陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)

「だいち」は地図作成、地域観測、災害状況把握、資源調査等への貢献を目的として開発された、
世界最大級の地球観測衛星(より細かく言えば「陸域観測技術衛星 ALOS : Advanced Land Observing Satellite」)です。
どちらかと言えば「だいち」の名の通り陸域の観測がメインの衛星で、
来月18日に打ち上げられる「しずく」が水域の観測をメインとしているのとは好対照です。
〈詳細データ〉
製造メーカー | NEC東芝スペースシステム |
国際標識番号 | 2006-002A |
使用ロケット | H-IIA 8号機 |
打ち上げ日時 | 2006年1月24日 10:33(JST) |
機体寿命 | 3年(設計寿命)、5年(目標寿命) |
本体形状 ・ 寸法 | ●本体(箱形) : 約6.2m×3.5m×4.0m ●太陽電池パドル : 約3.1m×22.2m ●PALSARアンテナ : 約8.9m×3.1m |
質量 | 約4t |
軌道 | 太陽同期準回帰軌道(回帰日数46日) |
軌道高度 | 約690km |
軌道長半径 | 7,070km |
軌道傾斜角 | 約98度 |
軌道周期 | 約99分 |
発生電力 | 7,000W以上(末期) |
姿勢制御方式 | 三軸制御(高精度姿勢軌道決定機能付) |
観測用搭載機器 | ●パンクロマチック立体視センサー(PRISM) ●高性能可視近赤外放射計2型(AVNIR-2) ●フェーズドアレイ方式Lバンド合成開口レーダ(PALSAR) |
〈「だいち」運用の推移〉
2006(平成18)年1月24日 : 打ち上げ

種子島宇宙センターからH-IIAロケット8号機で打ち上げられました。
「だいち」は中々に大型の衛星であったため、
SRB(固体ロケットブースタ)×2本+SSB(固体補助ロケット)×2本という「2022構成」での打ち上げとなりました。
「2022構成」での打ち上げは、この1機前の「ひまわり6号」打ち上げ時に続いて2回目。
ちなみに現在ではラインナップ整理の意味合いでこのタイプのH-IIAは廃止されています。
2007(平成19)年9月3日 : アマゾン川流域の違法伐採監視を開始

ブラジル政府の機関「環境再生可能天然資源院(IBAMA)」から依頼を受け、
アマゾンの森林破壊を食い止めるべく、違法な森林伐採の摘発に一役買う事に。
広大なアマゾンを監視するのは、地上からではとても一筋縄では行きませんが、
宇宙からの観測であれば一望にして確認出来、またレーダーを用いる事で天候に左右されない観測体勢を確立出来ました。
通常は3ヵ月後に配信されるPALSARによる撮影画像が、
この時は犯行現場を押さえる意味もあり、10日以内にブラジルの研究機関へ配信されるようになっていました。
やはり効果はあったようで、「だいち」の観測が終了すると同時に違法伐採件数が増加したとか・・・・・・
2008(平成20)年1月上旬 : 撮影画像の誤差やノイズの修正作業
「だいち」の撮影した画像には誤差やノイズが酷く、基本図を単独で作るには精度不足の状態でした。
これは衛星の姿勢制御が困難で、誤差5m以下という基準に達しなかった事、
加えて、地上の様子の複雑さが見積もり不足で、圧縮データを完全に戻せなかった事が原因とされました。
その数日後、文部科学省宇宙開発委員会は対策を発表。
高さ方向の誤差はデータの蓄積により、
画像のノイズは国土地理院と共同で開発したノイズ軽減ソフトウェアを用いる事により、それぞれ改善。
これにより、地形図の迅速な修正等に「だいち」の画像が使用されるようになりました。
2008年4月~ : 青森 ・ 岩手 ・ 秋田3県の不法投棄監視を開始

産業廃棄物の不適正処理を防止するために「だいち」の画像で監視を行うという、日本初の取り組みがスタート。
地上やヘリコプターからの観察も出来ない訳では無いですが、
植生や地形上の制約により、処分場の全貌を把握し難いという欠点が。
そういう事で、真上から観測した衛星画像は非常に有用という訳です。
ちなみにこの画像解析は岩手大学が行いました。
2010(平成22)年1月19日 : ハイチ地震による地殻変動を観測

この7日前に、ハイチの首都ポルトープランスの西南西25kmの地点でM7.0の地震が発生。
地震の規模やハイチの社会基盤の脆弱さが相まって、死者31万6千人という未曾有の大災害となりました。
「だいち」はすぐさまハイチ上空から撮影を行い、
震源の西側にある海岸付近が少なくとも35cm東へ動いた地殻変動の跡を捉えました。
ちなみにこの時点で運用開始から丸4年が経過しようとしており、設計寿命はとうに超えていました。
2010年5月30日 : パキスタン ・ フンザ渓谷に形成された土砂ダムを観測

2010年初頭の1月4日、パキスタンはギルギット・バルティスタン州内のフンザ渓谷にて大規模な地滑り災害が発生。
土砂は渓谷内を流れるインダス川の支流「フンザ川」をせき止め、所謂 “土砂ダム” を形成。
その後ダム湖は融雪期を経て、「アッタバード湖」と呼称されるレベルにまで巨大化しました。
そしておよそ5ヶ月後に「だいち」が観測を行い、ダム湖のリモートセンシングによる調査が実施されました。
その結果、ダム湖の面積は約1,060ヘクタール、最大水深約120m ・ 平均35m、貯水量379,114,580m3という、
東京ドーム約300個分程のとてつもない規模にまで成長している事が判明しました。
2011(平成23)年3月11日 : 東日本大震災発生
そしてとうとうこの日を迎えます。
これまで世界各地の災害を見つめてきた「だいち」が、生まれ故郷である日本の被災状況の緊急観測を開始。
発生翌日である12日から観測を行い、
4月22日までの10日間で計400シーンの画像情報を各府省 ・ 機関に提供しました。
この際はこれまでの「だいち」の活躍に対するお返しとして、
諸外国の衛星からも計5,000シーンもの画像が提供されました。
「だいち」はこの時点で目標としていた5年という寿命も突破。
しかしそれだけにいつ停止しても不思議ではなく、
4月14日にはJAXAが「だいち」後継機の打ち上げを前倒しする方針を固めます。
2011年4月22日 : 電力異常が発生し全機能停止
震災関連の情報提供が一段落を見せた折、突如として「だいち」に異常が発生。
午前7時30分頃、データ中継衛星「こだま」を介して得たデータから、
発生電力の急低下と共にセーフホールドモードに移行し、搭載観測機器の電源がオフ状態、全機能停止となっている事が判明します。
更に翌23日以降はテレメトリ受信が不能となります。
JAXAは地上局を優先的に「だいち」に割り当てる等して復旧に努めます。
2011年5月12日 : 停波作業を実施、運用を終了
一縷の望みを持って復旧作業が行われますが、JAXAはついに「だいち」を交信不能と判断。
10:50に「だいち」搭載の送信機とバッテリーを停止するコマンドを地上より送信し、運用を終了しました。

寿命を超えた運用の中、 “彼” が最期に見た物は傷付いた故郷の姿でした。
「だいち」は運用終了までに650万シーンを撮影。
フィリピン ・ レイテ島で起きた地滑りの観測に始まり、新潟県中越沖地震、中国 ・ 四川大地震と、
宇宙から大規模災害を見つめ続け、貢献した「だいち」。
最期の観測が日本で発生した東日本大震災だったというのも、考えてみれば不思議な話。
まるでそれは、余力を振り絞って観測を行い、自らの役目を果たし仰せたのを悟って力尽きたかのようでした。
5月2日に配信されたJAXAのメールマガジンにも、以下のような文言が。
擬人化を許していただけるなら、これらのデータはひょっとしたら「だいち」が、最後の力を振り絞り、血の涙を拭いながら地上に送り届けてくれたデータなのかもしれません。 それをどう生かし、どう役立て、どう次につなげるのか。 地上の我々に課された責務であるのでしょう。

現在後継機として、
●レーダー衛星「陸域観測技術衛星 だいち2号(ALOS-2)」
●光学衛星「陸域観測技術衛星 だいち3号(ALOS-3)」
の2基の研究 ・ 開発が進められています。
これは「だいち」のような大型衛星ではなく複数の中小型衛星によって観測を行う事で、
開発に時間を要し、打ち上げ失敗時等には全観測が不可能となる・・・といった開発 ・ 運用両面でのリスク低減を狙った措置です。
2号 ・ 3号の後はそれぞれの後継機を順次打ち上げる方針で、
JAXAとしては気象衛星「ひまわり」や情報収集衛星のようにシリーズ化していきたい考えです。
歳のせいで涙腺が緩くなって・・・・・・ww
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