アポロ計画を振り返る Vol.5 ~輝かしい失敗~
【前回までのあらすじ】
遂に「アポロ11号」が人類初の月面着陸を成し遂げる。
ケネディ大統領が語った “夢” が、 “現実” となった瞬間だった。
何処か間の抜けた(失礼)「アポロ12号」が二度目の月面着陸を果たす中、「アポロ計画」は新たな局面を迎える・・・
今回も取り上げるのは2つのミッションだけ。
『アポロ13号』 と 『アポロ14号』 。
ミッション内容的には「アポロ12号」とほぼ同じです。
・ アポロ13号(1970年4月11日打ち上げ)

【ミッションの分類】 | H |
【使用ロケット】 | サターンⅤ |
【着陸地点】 | フラ・マウロ高地(予定) |
【乗組員】 | ・ ジム・ラベル(船長) ・ ジャック・スワイガート(司令船パイロット) ・ フレッド・ヘイズ(月着陸船パイロット) |
【コールサイン】 | ・ 司令船 : Odyssey(オデッセイ) ・ 月着陸船 : Aquarius(アクエリアス) |
【ミッションの目的】 | ・ 月面着陸及び帰還 ・ 月面における科学探査 ・ 14号以降の着陸予定地点の写真撮影 |
11号 ・ 12号の連続成功で、人々の「アポロ計画」への関心は薄れていきました。
最早 “月旅行” は特別な催し物ではなくなっていたのです。
そんな中打ち上げられた「アポロ13号」は、世間の興味が向かないまま月へと出発。
しかし道中で陥った危機的状況により、皮肉にも13号は一挙に世間の注目を集める事となります。
それはミッションが月面着陸ではなく、乗組員3人を無事に帰還させるという物に変容した事を意味していました。

こちらは当初の13号乗組員達。
左からジム・ラベル、ケン・マッティングリー、フレッド・ヘイズ。
「当初の」としたのは、打ち上げ直前にメンバーの交代があったため。

こちらが交代後の乗組員達。
ラベルとヘイズはそのままですが、司令船パイロットがケン・マッティングリーからジャック・スワイガートになりました。
この措置は、バックアップ ・ クルーの月着陸船パイロットであるチャーリー・デュークが風疹を発症し、
風疹に免疫が無かったマッティングリーには感染の可能性があったため行われた物です。
ちなみにマッティングリーとデュークは、後に「アポロ16号」で共に月に向かいました。
「13」と言うと、西洋では日本における「4」のような忌み数です。
宇宙船の名前に13を使うのは、この「アポロ13号」が初の試み。
しかしNASAは果敢にも、打ち上げ時刻を「13:13」にしたり、月の引力圏に入るのは「4月13日」にする等、
『科学の結晶であるアポロがくだらない迷信を打ち破る』 というお膳立てを整えます。

しかし13号はその打ち上げ直後から、まるで13という数字のジンクスであるかのようにトラブルに見舞われます。
第1段が燃焼終了し、第2段(S-II)に点火した所、5基ある内の中央のJ-2エンジンが予定より2分早く燃焼停止。
他の4基のエンジンを予定より長く噴射させる事で大きな影響は出ませんでしたが、
後の調査でエンジンの停止はポゴ(共振)によるもので、第2段は空中分解寸前だった事が分かっています。
振動によってセンサーがエンジン圧力を過度に低く表示したため、コンピュータが自動的にエンジンを停止させたのでした。

打ち上げから2日後の4月13日。
メディア放映用の映像を撮り終えた後、乗組員に地上からある操作を行うよう指示が入ります。
それは、酸素タンクの攪拌。
支援船内では水素タンクの1つが圧力低下を起こし、その警告表示が付いていました。
この事象自体は以前から度々あった物なので大して問題無いとして、
一度警告表示が付いてしまうと、酸素タンク側で問題が発生してもそちらの警告表示が為されないという欠陥がありました。
そこでヒューストンの管制室は、酸素タンクの極低温攪拌を行う事で酸素タンクの状況を確認させようとしました。
司令船パイロットであるスワイガートが指示を受け、2号酸素タンクの攪拌機のスイッチを入れました。
その時、2号酸素タンクが爆発。
その爆発は近くの1号酸素タンクをも損傷させ、支援船の隔壁を吹っ飛ばしました。

アポロ宇宙船は、それまでのどの宇宙船よりも冗長性を追求した設計になっていました。
殆どの機器は二重化され、万が一どちらかにトラブルが起きても大丈夫なようになっていたのです。
酸素タンクも本来は1基で足りる所を、 “万が一への用意” として2基が搭載されていました。
それが2基とも失われてしまった訳で、まさに “想定外の事態” でした。
支援船の酸素が全て無くなってしまえば、司令船に残るのは大気圏突入までの10数時間分の酸素のみ。
そこで月着陸船 “アクエリアス” を救命ボートとして用い、3人を無事に帰還させる事がミッションの新たな目的となりました。

13号の帰還に際しては、2つの方法が提案されました。
一つは、その場で姿勢を反転し、支援船のSPSエンジンを用いて即座に引き返す「直接中止」。
これは時間的には早く帰還出来ますが、損傷した支援船のSPSエンジンを用いる事は相当なリスクがありました。
もう一つは、月を周回し引力を利用して自由帰還軌道に乗る「月周回中止」。
「直接中止」に比べ安全な反面、時間がかかってしまうため酸素や水が足りなくなる恐れがありました。
結果的に選ばれたのは後者、「月周回中止」の方法でした。
しかし13号は着陸地点の関係上、自由帰還軌道からやや外れた位置を飛行していたため、
その軌道修正と地球期間までの時間短縮の意味合いも含め、月着陸船のエンジンを用いて噴射を行う事になりました。

さて、月着陸船を救命ボートとするに当たって問題となったのはその構造。
本来月着陸船はその名の通り「月面着陸」のための船であって、2名の乗員を48時間生存させれば充分でした。
ところが事故が起きた今となっては、3名の乗員を最低でも96時間は生存させなければならないのです。
酸素については余裕があったものの、電力や水の不足は深刻でした。
そこであらゆる機器の電源を落とし節電を行い、極力水も飲まないという飛行を強いられる事に。
こういった必死の努力で地球帰還までの電力や水の確保は出来た訳ですが、
その代わり船内の気温は氷点下近くまで下がり、乗組員達は脱水症状に陥ってもいました。
しかし “アクエリアス” はその持てる能力をフルに発揮し、4月17日の帰還まで乗組員達を護り切る事に成功。
計画当初は開発の遅れから大きく足を引っ張った月着陸船でしたが、
この13号等では、ミッションを救うまでの働きを見せた、言わば “名機” である事を証明しました。
本来の役目とは違えど、乗組員3名を救い、立派にミッションを成し遂げた “アクエリアス” 。
大気圏再突入前に司令船からドッキングを解かれ、後はバラバラに砕け散っていくだけのこの船に、
乗組員達が 「さよなら “アクエリアス” 、有り難う。 世話になった」 とねぎらう一幕も。
映画「Apollo 13」にもあったシーンですが、「はやぶさ」帰還時と似たような状況で、泣ける話です(´;ω;`)

●大気圏突入角度は大丈夫か
●司令船の耐熱シールドに損傷は無いのか
●パラシュートはちゃんと開くか
等々、不安要素を数多く抱えつつも、13号は無事に南太平洋へ帰還。
その後行われた検証作業で、13号の事故は様々な要因が絡んで発生した物であった事が判りました。
以下に事故に関係した部品とその過程を列べていきます。
①元々支援船の酸素タンクのヒーター(液体酸素を必要分だけ蒸発させる)とサーモスタット(ヒーター制御用の温度維持装置)の規格は、司令船の28ボルト電源に合わせて設計されていた。 ところが発射台上でタンクの充填と加圧の作業を行なう際には、65ボルトの電源が使用されていた。 このため支援船の製作元であるノース・アメリカン社は下請け企業のビーチクラフト社に対し、ヒーターを65ボルトの規格に合わせるよう指示し、ビーチクラフトはそれに従ってタンクを改造したのだが、この時何故かサーモスタットにだけは何も変更が加えられなかった。
②酸素タンクの温度計の表示の上限は38℃で、これ以上は表示されないようになっていた。 しかし通常の場合、27℃に達した時点で自動的にサーモスタットが作動してヒーターを停止させるため、特に問題になる事は無かった。
③13号に使用された、支援船に酸素タンク及びその付属機器一式を搭載する 『棚』 は、本来「アポロ10号」で使用されるはずの物であったが、電磁波干渉(ノイズ)の問題が発生したために、付属機器ごと取り外され修理される事となった。 ところがクレーンでつり上げた際、棚を支援船の機体に固定している4本のボルトのうちの1本が外されていなかった。 このため、5cm前後持ち上げた所でワイヤーが外れ、棚は元あった場所に落下してしまった。 この際の衝撃により、タンク内の酸素を抜き取る時に使用されるパイプが、本来の取りつけ位置から外れてしまった。
④この出来事の後、地上で訓練を行うべくタンクに液体酸素が充填された。 ところが訓練終了後、先の落下で酸素放出用のパイプが外れてしまったために、中の液体酸素が抜き取れなくなってしまった。 今からタンク一式を交換となると、計画が大幅に遅れてしまう。 そのため担当技術者は、ヒーターで液体酸素を加熱し、気化させて放出する事を提案し、ラベル達乗組員もこれを承認した。 ヒーターが入れられ、タンク内の温度が上昇し27℃に達するとサーモスタットが作動した。 ところが回路に流れていた65ボルト電源にて発生した電流が、28ボルト用の設計のままだったサーモスタットを一瞬にして溶着させてしまい、この結果ヒーターのスイッチはオンのままになってしまった。
⑤8時間後、液体酸素は全て気化して抜き取られたが、ヒーターは上述の通りオンのままだった。 そのため最終的にタンク内の温度は538℃にも達したのだが、温度計は38℃までしか表示されないようになっていたため、異常に気付いた者は誰も居なかった。
⑥これにより攪拌用ファンの電線を覆うテフロン製の被膜がほぼ焼失し、電線がむき出しの状態になった。 タンク内に液体酸素が再充填された時には、それは最早 “爆弾” とでも言うべき状態となっていた。 スワイガートが極低温攪拌の操作をするためにファンのスイッチを入れた際、むき出しになっていた電線から火花が飛び、燃え残っていたテフロンが発火。 100%純粋な液体酸素の中で発生した炎は、総量136kgの液体酸素を一瞬の内に気化させ、膨張したガスがタンクを吹き飛ばした。
⑦この爆発により正常だった1号タンクも損傷を負い、使い物にならなくなった。 この13号の事故を教訓として、後の飛行に用いられた支援船では、2つの酸素タンクの距離を十分に離し、更に非常用電源を別の区画に設置する等の改良が加えられた。
![]() | アポロ13 [Blu-ray] (2012/04/13) トム・ハンクス、ケヴィン・ベーコン 他 商品詳細を見る |
そして何度も言うようですが、この13号のストーリーは「Apollo 13」として映画化されました。
この映画はジム・ラベル船長の著書「Lost Moon(邦題 : アポロ13)」を原作としている物で、
史実とは若干異なる映画的演出もあるものの、素晴らしいVFXや手堅い構成でアカデミー賞にノミネートされました。
“輝かしい失敗” 、或いは “栄光の失敗” 等と評される13号のミッションを知るにはうってつけだと思います。
時間のある時にでも、是非一度はご覧下さい!
・ アポロ14号(1971年1月31日打ち上げ)

【ミッションの分類】 | H |
【使用ロケット】 | サターンⅤ |
【着陸地点】 | フラ・マウロ高地 |
【乗組員】 | ・ アラン・シェパード(船長) ・ スチュアート・ルーサ(司令船パイロット) ・ エドガー・ミッチェル(月着陸船パイロット) |
【コールサイン】 | ・ 司令船 : Kitty Hawk(キティホーク) ・ 月着陸船 : Antares(アンタレス) |
【ミッションの目的】 | ・ 月面着陸及び帰還 ・ 月面における科学探査 ・ 15号以降の着陸予定地点の写真撮影 ・ 13号の失敗を踏まえた計画の信頼回復 |
生還したからまだ良かったようなものの、13号の事故後「アポロ計画」は大幅な見直しを余儀無くされます。
13号に続いてこの14号も失敗すれば確実に計画は中止に追い込まれるため、
事故の要因となった支援船を主として、各種の設計見直し等が行われました。

失敗が許されないプレッシャー満点なこのミッションに選ばれたのは、この3名。
左からエドガー・ミッチェル、アラン・シェパード、スチュアート・ルーサ。
シェパードは「マーキュリー・レッドストーン3号」において、アメリカ人初の有人飛行に成功した人物。
しかしその後メニエール病を発病し一度も飛行出来なくなっていたので、今回が2度目にして10年振りの飛行でした。
ルーサはこれが初飛行。
度重なる打ち上げ延期でシミュレータにおいて1000時間以上の訓練を受けるハメとなりました。
ミッチェルもこれが初飛行。
飛行中に超能力の実験をやったり、帰還後に新興宗教を起ち上げちゃったりと、ちょっとアレな人・・・w
14号もこれまでのミッション同様、サターンⅤでの打ち上げはスムーズに行われました(天候不順による延期はあれども)。
問題が発生したのは軌道上において。

第3段(S-IVB)内に収納されている月着陸船を、司令船+支援船側からドッキングして引き出すのですが、
この際司令船と月着陸船を連結 ・ 固定するロック機構が上手く働かず、1時間半の間に6回もドッキングし直す事に。
ところが1度上手く機能してしまえば、後のドッキングでは平然と一発で成功していたというのだから不思議な話w

ところがこの他にも14号は、結構なトラブルに見舞われます(13号程ではないが)。
その発端となったのは、前回13号においてあれ程役に立ったはずの月着陸船!
①月着陸船のコンピュータが着陸中止スイッチからの中止信号を誤受信
そのまま放っておくと月着陸船は信号通りに月面着陸を中止してしまうため、NASAはすぐさま対応を協議。
NASAは振動によって小さなハンダの欠片が剥がれて中止スイッチの接点の中を動き、
回路が閉じてしまったためにコンピュータが間違った信号を受け取ったものと判断。
取り敢えずはハンマーでスイッチ周りを叩くという
しかし仮にこの問題が降下エンジンの始動後に再発するとマズイため、NASAとMITはもっと根本的な対処法を協議。
結局コンピュータのプログラムを書き換えて、信号を無視するよう修正され、事無きを得ました。
②月面に照準を定める着陸用レーダーの故障
これも月面着陸を行うには結構深刻な問題だったのですが、
最終的には着陸の直前ギリギリになってレーダーは作動。
ちなみにシェパードは他の5回の着陸ミッションのどれよりも正確に、着陸予定地点に月着陸船を着陸させる事に成功しました。

着陸後シェパードとミッチェルは2度に渡る船外活動を実施。
“Rickshaw” の愛称で呼ばれた人力車を使い、地震計等の大型機材を運びました。
月面車が導入される前のミッションだった事もあり、2人が歩いて移動した距離は計画史上最長となりました。
その過程で様々な科学分析装置や実験装置(ALSEP : アポロ月面実験パッケージと呼ばれた)を展開 ・ 作動させ、
過去最大 ・ 約45kgもの月の岩石標本を地球に持ち帰りました。

シェパードは特注した折り畳み式の特製6番アイアンとゴルフボール2個を持ち込んでいました。
彼はこれで “月面バンカーショット” を行い、人類初の月面ゴルフプレイヤーとなりましたw
ちなみに飛距離は約180~360mだったと見積もられています。
/.: ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ \
/: : : \
/: : : : \
/: : : : : : \ 13号の項目書くので予想以上に疲れました・・・・・・
: : : : : : : :.._ _ \ さて次回はいよいよ最終回! お楽しみに!
: : : : : : : ´⌒\,, ;、、、/⌒` l
: : : : ::;;( ● )::::ノヽ::::::( ● );;:::: |
: : : : : : ´"''", "''"´ l
: : : : : : . . ( j )/ ./
\: : : : : : :.`ー-‐'´`ー-‐'′ /
/ヽ: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : イ\
: : : : : : : : : :.``ー- -‐'"´ \
: : : : . : : . : : . \
- 関連記事
-
- 川崎重工、H-IIAロケット21号機用のフェアリングを出荷 (2012/04/04)
- Amazon CEOがサターンⅤのエンジン引き上げに挑む! (2012/04/01)
- アポロ計画を振り返る Vol.5 ~輝かしい失敗~ (2012/03/31)
- 宇宙兄弟も乗る「Ares I」ロケットとは? (2012/03/30)
- H-IIA 21号機及びH-IIB 3号機の打ち上げ日時発表 (2012/03/21)
| 宇宙開発 | 20:42 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑
あたりめ(08/30)
名無しのGA研究会(08/20)
16000系(03/17)
名無しのGA研究会(12/09)
名無しのGA研究会(12/09)
名無しのGA研究会(08/30)
名無し(08/01)
いっくん(03/02)
バイパー(02/28)
CHAKE(02/12)