知ってるようで知らない日本の気象衛星の歴史

普段何気なく天気予報等で目にしている、「気象衛星」からの画像。
しかしこれを撮影している気象衛星自身の事は、余り一般には知られていないというのが実情ではないでしょうか。
そもそも気象衛星の必要性が叫ばれ出したのは、1959(昭和34)年の「伊勢湾台風」がきっかけでした。
この超大型の台風は紀伊半島から東海地方を中心として日本全国に甚大な被害を与え、
“気象衛星があれば被害を軽減出来たのではないか” という声が有識者等から挙がるようになります。
当時の日本の台風観測体勢はとても充分な物とは言い難く、アメリカの航空機を用いた観測に頼っていました。
そこで気象衛星を用いて、広域的な観測を行う事を目指したのです。

そして誕生したのが、 気象衛星 “ひまわり” でした。
正式名称を静止気象衛星GMS(Geostationary Meteorological Satellite)と言い、
その名の通り東経140度の静止軌道上から気象観測を行います。
“ひまわり” は世界気象機関(WMO)と国際学術連合会議(ICSU)が共同で行なった、
地球大気観測計画(GARP)の一翼を担う存在として計画された物でもあります。
そのため得られた気象情報は日本国内だけでなく、東アジアや太平洋地域の幾つかの国々にも提供しています。
ひまわり1号(GMS) 運用 : 1977年11月4日~1981年12月21日
記念すべき初号機となった機体です。
基本設計はアメリカの静止気象衛星「GOES-4」~「GOES-7」をベースとした物で、
NECが主契約者として担当し、主にアメリカのヒューズ社(現 : ボーイングスペースシステムズ社)が製造を行いました。
つまり事実上、殆ど国産ではない技術を用いて造られた衛星でした。
せめて打ち上げぐらいは日本で行いたかったものの、
アメリカからの技術導入で製作が行われていた「N-Iロケット」の開発が間に合わず、結局これもアメリカに依頼。

デルタ2914ロケット132号機に搭載されたGMSは、そつな~く静止軌道上に運ばれました。
1977(昭和52)年11月4日から定常運用を開始し、
翌1978(昭和53)年4月6日から気象庁気象衛星センターによる本格運用が開始されました。
〈詳細データ〉
国際標識番号 | 1977-065A |
打ち上げ日時 | 1977(昭和52)年7月14日 19:39(JST) |
使用ロケット | Delta 2914 132号機 |
打ち上げ場所 | ケープカナベラル空軍基地 |
形状 | 直径 : 約220cm 高さ : 約270cm 円筒形 |
質量 | 約325kg(静止化後初期) |
軌道 | 静止衛星軌道(東経140度) |
軌道高度 | 約36,000km |
軌道傾斜角 | 0度 |
軌道周期 | 約24時間 |
姿勢制御方式 | スピン安定方式 |
ひまわり2号(GMS-2) 運用 : 1981年12月24日~1984年8月27日
2機目となる “ひまわり” 。
基本的な性能等は1号と大差ありません。
しかし、2号においては1号と大きく異なる点が2つあります!
●国産部品の搭載
●日本のロケットで打ち上げ
そう、やっとこさ「日本の気象衛星」と呼んでも差し支えない状況になったのです。

GMS-2を搭載したN-IIロケット2号機は見事打ち上げに成功。
1号の後を引き継ぎ、日本の気象観測の中心的役割を果たす・・・・・・ハズでした。
ところがこのGMS-2はスキャン系のトラブルを続発させ、エラーの頻発でロクな観測が出来ませんでした。
急遽、既に運用終了となっていたひまわり1号を叩き起こし観測させる事とします。
しかし1号も設計寿命はとうに超えた “ご老体” 。
1984年6月29日の観測を最後にエラーを出し、観測不能となります。
泣く泣く気象庁と宇宙開発事業団(現 : JAXA)は、2号での観測を再開。
結局、後継のひまわり3号(GMS-3)が運用に就くまで、何とも不安定な観測しか行えない状態が続いたのでした。
〈詳細データ〉
国際標識番号 | 1981-076A |
打ち上げ日時 | 1981(昭和56)年8月11日 5:03 |
使用ロケット | N-II 2号機 |
打ち上げ場所 | 種子島宇宙センター |
形状 | 直径 : 約215cm 高さ : 約345cm 円筒形 |
質量 | 約296kg(静止化後初期) |
軌道 | 静止衛星軌道(東経140度) |
軌道高度 | 約36,000km |
軌道傾斜角 | 0度 |
軌道周期 | 約24時間 |
姿勢制御方式 | スピン安定方式 |
ひまわり3号(GMS-3) 運用 : 1984年8月27日~1989年12月14日
GMS-3の打ち上げは、上述のGMS-2のトラブルにより早められました。
何とかして観測体勢を立て直す必要性に迫られていたというのが実情です。
この3号は安定して観測を行い、1988(昭和63)年には観測回数を大幅に増やす事に。
現在の充実した観測態勢の基礎は、この3号が築いたと言っても過言でないのかもしれません。
〈詳細データ〉
国際標識番号 | 1984-080A |
打ち上げ日時 | 1984(昭和59)年8月3日 5:30 |
使用ロケット | N-II 6号機 |
打ち上げ場所 | 種子島宇宙センター |
形状 | 直径 : 約215cm 高さ : 約345cm 円筒形 |
質量 | 約303kg(静止化後初期) |
軌道 | 静止衛星軌道(東経140度) |
軌道高度 | 約36,000km |
軌道傾斜角 | 0度 |
軌道周期 | 約24時間 |
姿勢制御方式 | スピン安定方式 |
ひまわり4号(GMS-4) 運用 : 1989年12月14日~1995年6月21日
GMSシリーズ4機目。
3号の予備機として打ち上げられ、その役目を引き継いだ後は、やはり安定して運用されました。
●姿勢制御に必要な推進剤の容量を増設
●機構系の信頼性強化
と、若干のマイナーチェンジを図ったものの、基本的には3号と大きな違いはありません。

今回から用いられるロケットが、N-IIからH-Iになりました。
ロケットの方も確実に国産化の割合が高められていきました。
こちらの歴史の方も、いずれ書いていきたいと思いますw
〈詳細データ〉
国際標識番号 | 1989-070A |
打ち上げ日時 | 1989(昭和63)年9月6日 4:11 |
使用ロケット | H-I 5号機 |
打ち上げ場所 | 種子島宇宙センター |
形状 | 直径 : 約215cm 高さ : 約345cm 円筒形 |
質量 | 約325kg(静止化後初期) |
軌道 | 静止衛星軌道(東経120度→140度) |
軌道高度 | 約36,000km |
軌道傾斜角 | 0度±5度 |
軌道周期 | 約24時間 |
姿勢制御方式 | スピン安定方式 |
ひまわり5号(GMS-5) 運用 : 1995年6月21日~2003年5月22日
“ひまわり” の名を受け継ぐ日本の気象衛星5機目にして、GMSシリーズの最終機です。
4号同様、GMS-3以降の機体と大差はありません。
しかしここで注目して頂きたいのが運用年数。
他のGMSシリーズが4~5年の運用なのに対して、何故かこのGMS-5だけ8年近い運用が行われているのが分かります。
5号だけ寿命が長かったのかと言えば、そんな訳でもありません。
他機同様、設計寿命は5年です。
何でこんな事になっているのか、その理由は後述するとして、とにかく5号は出来た子でした。
運用終了時には、
『打上げ後設計寿命を大幅に越えた8年間、画像を取得し、我が国のみならず世界の気象業務に大きく貢献した』
・・・・・・と、JAXAからも褒められる程の働きを見せたのです。

打ち上げにはH-IIロケットを用いる時代に。
日本の技術のみで完成させた「純国産」の大型ロケットです。
〈詳細データ〉
国際標識番号 | 1995-011B |
打ち上げ日時 | 1995(平成7)年3月18日 17:01 |
使用ロケット | H-II 試験機3号機 |
打ち上げ場所 | 種子島宇宙センター |
形状 | 直径 : 約215cm 高さ : 約354cm 円筒形 |
質量 | 約345kg(静止化後初期) |
軌道 | 静止衛星軌道(東経140度) |
軌道高度 | 約36,000km |
軌道傾斜角 | 0度±3度 |
軌道周期 | 約24時間 |
姿勢制御方式 | スピン安定方式 |
みらい1号(MTSAT-1) 運用 : 2000年~(予定)
オイちょっと待て、そんな名前の衛星聞いた事無いぞ? という方は鋭い。
それもそのはず、今に至るも “みらい” という衛星は宇宙に存在してはいないからです。
事の発端は1990(平成2)年。
かの悪名高い「スーパー301条」により、日本はGMS-5の後継としてアメリカ製の完成品購入を余儀無くされます。
これこそが運輸多目的衛星MTSAT-1。
MTSAT-1にはGMS-5の後継としての気象観測機能以外に、衛星通信を利用した航空管制機能等も搭載されていました。
これは運輸省(現 : 国土交通省)航空局が計画していた「航空管制衛星」計画に相乗りする事で、予算確保を図った措置でした。
愛称はGMSシリーズの “ひまわり” は受け継がず、新たに一般から公募。
その結果 “みらい” という愛称に決定。
後は打ち上げを待つばかりとなりました。
MTSAT-1を載せたH-IIロケット8号機は1999(平成11)年11月15日に打ち上げられました。
・・・・・・が、第1段のメインエンジン「LE-7」が予定より早く燃焼を停止してしまった事から打ち上げに失敗。
ロケットは指令破壊(爆破)が行われ、 “みらい” は海の藻屑と消えたのです。
ここからが大変でした。
後釜が居なくなったひまわり5号は、寿命を超えてなお運用を継続せざるを得なくなります。
GMS-5だけ8年もの間運用が行われた理由はこれで、
搭載カメラは老朽化し、静止軌道を保つための姿勢制御用の燃料も残り少なくなる等、満身創痍の状態でした。
2003(平成15)年半ばになると流石にもう限界が近付いたので、アメリカの気象衛星「GOES-9」にバトンタッチ。
そのため2005(平成17)年半ばまで、日本は自国の気象衛星を用いた観測が行えない状況下にあった訳です。
ひまわり6号(MTSAT-1R) 運用 : 2005年6月28日~

いつまでもアメリカの衛星を借りておく訳にもいかないので、
MTSAT-1の代替機としてMTSAT-1Rをアメリカのスペースシステムズ / ロラール社に再発注。
当初MTSAT-1Rは2003(平成15)年の夏頃にH-IIAロケット6号機を使用して打ち上げを予定していましたが、
●製造上の不具合発生による製造の遅れ
●スペースシステムズ / ロラール社の破綻
●そもそものH-IIA6号機の打ち上げ失敗に伴うH-IIAロケットの設計見直し
等々、聞くも涙語るも涙・・・と言わんばかりの延期の嵐に見舞われ、結局打ち上げは2005(平成17)年までズレ込みます。

MTSAT-1Rを載せたH-IIAロケット7号機は見事に成功。
愛称は “みらい” ではなく、広く親しまれているという理由で “ひまわり” を受け継ぎました。
気象衛星としての運用は2010(平成22)年7月1日までで、以後は後継のひまわり7号に引き継いでいます。
しかし航空管制業務は引き続き担っており、7号とのコンビ体勢で今日も運用に就いています。
〈詳細データ〉
国際標識番号 | 2005-006A |
打ち上げ日時 | 2005(平成17)年2月26日 18:25 |
使用ロケット | H-IIA 7号機 |
打ち上げ場所 | 種子島宇宙センター |
形状 | 本体 : 2.4×2.2×3.0(m) 箱形 全体 : 全幅・・・約33m(太陽電池パネル含む) |
質量 | 3.3t(打ち上げ時) 1.3t(ドライ時) |
軌道 | 静止衛星軌道(東経140度) |
軌道高度 | 約36,000km |
軌道傾斜角 | 0度 |
軌道周期 | 約24時間 |
姿勢制御方式 | 三軸制御 |
ひまわり7号(MTSAT-2) 運用 : 2006年9月4日~

気象衛星としてはMTSAT-1Rの1機だけでも運用可能なんですが、航空管制業務には最低2基体勢が必要!
・・・・・・という事で運輸多目的衛星新2号(MTSAT-2)が三菱電機で製造されます。
MTSAT-1Rはアメリカの完成品をそっくりそのまま輸入でしたが、日本も低価格での衛星製造技術を確立。
基本性能や見た目こそ6号と変わりませんが、中身は実質的に “別物” と言って良い程に手が加えられています。

打ち上げはH-IIAロケット9号機が担当。
打上げ時の重量は約4.7tで、打上げ時点では日本の宇宙開発史上最も重い衛星でした。
7号はその後2010(平成22)年7月1日を以て、気象観測業務を6号から引き継いでいます。
〈詳細データ〉
国際標識番号 | 2006-004A |
打ち上げ日時 | 2006(平成18)年2月18日 15:55 |
使用ロケット | H-IIA 9号機 |
打ち上げ場所 | 種子島宇宙センター |
形状 | 本体 : 2.4×2.6×2.6(m) 箱形 全体 : 全幅・・・約33m(太陽電池パネル含む) |
質量 | 4.65t(打ち上げ時) 1.7t(ドライ時) |
軌道 | 静止衛星軌道(東経145度) |
軌道高度 | 約36,000km |
軌道傾斜角 | 0度 |
軌道周期 | 約24時間 |
姿勢制御方式 | 三軸制御 |
現在運用中なのが「ひまわり6号」及び「ひまわり7号」ですが、
現在この後継機の打ち上げが2014(平成26)年 ・ 2016(平成28)年に予定されています。
ちなみに、愛称が “ひまわり” となった理由は、
植物のひまわりの花は常に太陽に向かって花を咲かせ、時間と共に太陽を追尾し向きが変化すると言われている。
このためいつも地球を同じ方向から見ているという意味と、1日に1回地球を回るという意味で “ひまわり” と名付けられた・・・

/ ̄ ̄\ <お前結局それじゃんよ・・・・・・
/ _ノ \
| ( ●)(●) ____
. | U (__人__) / \
| ` ⌒´ノ /─ ─ \ <「ひまわり」と言えば、
. | } \ / (⌒) (⌒) \ 我等がりっちゃんですよねー
. ヽ } \ | (__人__) |
ヽ ノ \ \ ` ⌒´ _/
/ く. \ \ ノ \
| \ \ (⌒二 |
| |ヽ、二⌒)、 \ | |
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